現在(令和8年6月16日)、間違った可能性のある刑事裁判をやり直す再審をめぐる制度改正が議論されています。
現行法では、刑事訴訟法にわずかの規定があるだけです。主に、(1)長期間を要することと(2)検察の「証拠の出し渋り」が可能であることが、えん罪(ぬれぎぬ)の被害者(主に受刑者)を苦しめていると問題になっています。
今回は、(1)について、私の意見を書いてみたいと思います。
現行制度では、再審は、(A)再審請求審で再審開始決定が確定するだけでなく、(B)再審公判が開かれ、そこで無罪が確定しなければ、「えん罪」と認められたことにならない、という形になっています。(A)は、多くの場合地裁から始まり、高裁への即時抗告、最高裁への特別抗告ができます。
問題は、再審請求者(主に受刑者)だけでなく、検察官もできることになっている(刑事訴訟法439条1項1号)という点です。
即時抗告、特別抗告では、一度再審開始決定が出ても、逆転したり、審理のやり直しが命じられたりすることが頻繁にあります。実際にそのせいで、特に重大事件では、再審請求審(A)だけで、数十年単位で審理が続いてしまうという事態になっています。これが、再審被害者の人生のどれほどの割合を占めてしまうかを考えなければなりません。
そこで、有罪の維持を求める「検察側からの抗告」は禁止するよう求める声が上がっています。ところが、現在の法案では、「原則」禁止にとどまり、道自体は残す形になっています。そして、例外に当たるかどうかは、当の検察自身が判断できてしまうのです。これでは、特に重大事件では、全く意味がないと思います。
というのも、例えば、袴田事件では、あれだけはっきりと無罪(無実)の証拠がありました。しかしながら、抗告しなければ「捜査機関による証拠の捏造」という(客観的には)動かしがたい事実を、検察自身も「認めた」形となってしまうという状況になります。そうすると、メンツにかけてそれだけは避けたいという心理が働いたはずです。制度上だれも文句を言えない最高裁に「認めさせられた」のなら、裁判で「結果的に負けた」だけ、と(世間や検察自身に言い聞かせる)言い訳が一応成り立つわけです。
検察が「メンツ」にこだわる組織であるという風土が変わらない限り、これからも、(捜査機関の不祥事が原因のえん罪事件では特に、)「言い訳」が成り立つかどうかを重視してしまうはずです。「まだ最高裁がある」なら、当然そうするでしょう。最高裁に言われたのならしようがないけれど、高裁以下に不祥事を疑われたのを「認める」のは承服しがたい、というわけです。「あるはずの手段を使わない」=「認めた」と発想してしまうのです。
このように考えると、原則禁止ではもちろんのこと、検察側抗告の全面禁止だけでも、解決(裁判の迅速化)にはならないことが予測できます。
現在は、検察にも最高裁まで争う手段があります。ですから、最高裁か検察自身のどちらかが、無罪に変更すべき「明らかな証拠」(刑事訴訟法435条6号)があると認めたら、再審公判(B)が始まるという構造です。そのため、いったん再審公判(B)が始まってしまえば、証拠を調べ直したりということはほぼ行われません。儀式的に公判を開いて無罪判決を言い渡して、控訴等なく終わります。再審請求審(A)で「勝負あった」だからこそです。
そうすると、検察側抗告を全面禁止するとどうなるでしょうか。最高裁の判断を受けていないまま始まった場合、検察側は「再審公判」(B)で徹底抗戦をするでしょう。「再審公判」自体や、控訴・上告で同じ期間が費やされるだけです。再審請求審(A)を足せば、「戦場」は、3(+アルファ)から4に、むしろ増えるだけです。
あまり主張されていませんが、私個人は、せめて3を3のままにするため、再審請求審(A)で開始決定が出れば、再審公判(B)は、少なくとも高裁から始める(最大2つの審級で終わるが、最高裁の判断を受ける道は残す)という制度にすれば、上記のような「悪化」は防げるのではないかと思います。
再審公判(B)を全部いきなり最高裁へ持っていくと、件数や審理のキャパシティーを超えます。しかし、名前こそ「請求審」の「決定」ですが、再審請求審(A)できちんと審理されて通過した事件だけに再審開始決定が出る以上、高裁のキャパシティーを超える事件数にはならないと思われます。さらに言えば、それでキャパシティーを超えるなら、高裁の側の体制の方を増強するべきです。
人が人を裁く以上、間違うことは避けられません。また、えん罪被害者(=無実の人)は、真実は犯罪を犯していないということですから、犯罪を犯さない我々であっても、「明日は我が身」です。
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