当事務所のモットーは、「弁護士は、社会生活上の医師である」ですが、今回は、あえてその両者の違いを考えてみたいと思います。

一番の違いは、対峙する(立ち向かう)相手は何か、です。医師は、もちろん病気・ケガということになります。悪(良くない状態)に立ち向かうのであり、ほぼ異論がないと言えるでしょう。これに対して、弁護士は、絶対的悪に立ち向かうのではなく、相手も「人」であることがほとんどです。敵味方それぞれに言い分や事情があり、絶対的正義というものは存在しません。「ある」というのは、誤解か思い上がりか視野狭窄(視野がせばまること)です。その状況の中で、依頼者なりの「正義」を、許される限り追いかけるのが、弁護士の仕事ということになります。また、目指すべき「解決」も、絶対的な「正解」(医師で言う「治癒」)があるわけではなく、時には探しながら事件を進めていくこともあります。弁護士は、依頼者との二人三脚の要素が強いです。

次に、許された時間が大きく違います。医師は、時には容体の急変などを受けてすぐに対処しなければならないことがあります。もちろん、そういった場合に医学書を参照する時間などありません。その点、弁護士の「期限」は、ほとんどの場合、短くても1日単位であり、時々刻々と状況が変化したりするわけではありません。ですので、知識の暗記は最低限でよく、法体系として頭に入っていれば、書籍やインターネットを調べて解決策を探すことが許されます。どこをどう調べるかという調査能力は重要ですが、スピードはそんなに要求されません。六法全書を丸暗記している弁護士など実在しません。

また、保険制度のありなしが違います。医療に関しては、日本では国民皆保険となっていて、自由診療を選ばなければ、3割以下の負担で治療を受けることができます。残りは、保険者が負担してくれます。しかし、残念ながら、2025年現在、弁護士の費用に関してそのような公的制度は、刑事の国選弁護しかありません。その国選弁護の報酬は、かなり低額に抑えられてしまっています。民事で利用される法テラスはどうかと言うと、原則として立替え(要するに貸付け)となっていて、分割でも全額を返さなければなりません。よく誤解されていますが、法テラスが「安い」のは、公的資金が入っているからではなく、弁護士が「我慢」しているからです。相場との差額を誰かが払っているわけではないのです。医療と法的サービス、どちらも生活に欠かせないものであるなら、もっと充実した保険制度があってもいいように思います。制度の改善が望まれます。

このような違いにもかかわらず、目の前の依頼者・患者のために全力で動くところなど、共通点の方が圧倒的に多いです。弁護士も医師並みに身近になることを祈っています。

投稿者プロフィール

松本 治
松本 治
「弁護士は、社会生活上の医師である。」この信念に基づき納得の解決を目指します。
どんな小さな事件でも、手を抜かないで取り組みます。1件1件、心を込めて「手作り」の弁護活動をご提供いたします。